2011年07月05日

「救いのイメージ」の復活

文化人類学者である上田紀行さんは今回の震災を、地震、津波による
被害の「天災」、原発事故の「人災」と明確に区別した上で、こう言います。

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天災としての地震と津波の被害者については、徹底的に救済していくことが
何よりも重要です。

肉親を失い、友人も失い、家も財産も職も失い、困窮の中にある仲間を私たち
は見捨てることができるでしょうか。

そしてその徹底的な救済は、単に今回の被災者救援ということだけでなく、
この日本社会の中で「救い」というもののイメージを復活させていくことに
つながると思います。

かつての日本社会は苦しんでいる人を救う社会であったと思います。
それがいつしか人を救わない社会、困窮しても自己責任だという冷たい社会へ
と変質していったのですが、いまこそ「救いの力」を復活させる、あるいは、
「救いのイメージ」を復活していく。そういう時期にあるとも思います。

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大震災による死者と行方不明者の合計は約28,000人もの数にのぼっている。
一方で、この国は毎年30,000人を超える自殺者を生み出し続けていることを
忘れてはならない。

あの悲惨な大震災による死者と行方不明者と同じ数の人々が、毎年自分の命を
絶っている国に私たちは生きているのである。

この震災からの復興は、これだけ多くの自殺者を毎年生み出し続けるような、
この社会システムを根底から変えていくものとならなければいけないだろう。

それは徹底的に苦しむものの側に立ち、ぜったいに見捨てないという、
社会の中での「信頼」の回復である。

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(「慈悲の怒り」上田紀行、朝日新聞出版)
posted by NPO法人アスイク at 00:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月17日

社会起業家の役割

ツイッターでもつぶやいていますが、
以前にも増して様々な企業、専門家などとミーティングの場を
いただくことが増えています。

社会起業家のトップランナー。

日本を代表する研究機関の部長で、子どもの貧困問題研究の第一人者。

大手監査法人の広報・CSR室長。

教育の研究領域では全国的に著名な大学教授。

大手予備校の広報部長。

全国紙、地元放送局の記者。

ここ数日でも、これだけの方々と今後の連携のあり方についてお話を
させていただきました。

もちろんここで挙げていない支援者もいますし、
活動に参加してくれるボランティアも貴重な協力者です。

改めて感じているのは、こういった高度な専門性や経営的な資源をもっている
組織や人と、社会に横たわる問題をコーディネートしていくのが自分たちの役割
であるということです。

ニーズと支援の橋渡しこそ、社会起業家がなすべきことなのだと感じています。

そしてその先に待ち受けているのは、
社会システムそのものの変革という、さらに大きな役割かもしれません。
posted by NPO法人アスイク at 19:23 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月10日

支援過多の弊害

全国から被災した子どもたちを支援しようと、様々な支援物資が集まっていますが、
手放しに喜べない状況が起こり始めています。

たとえば、ある地域の書店がつぶれてしまったという話。

子どもたちに向けて教科書などが大量に届けられた結果、それまで地元の子どもたち
が教科書を購入することで収入をあげていた地元の書店が倒産してしまったそうです。

教科書など現物で支援するのではなく、図書券などを届ければ、こういった事態は
回避できたかもしれません。

それから、子どもたちがモノを大切にしなくなっているという話。

ある学校では、消しゴムを落とした子どもが「別なのがあるからいいや」と、
その消しゴムを拾わなかったという出来事があったそうです。

文房具などの支援物資が、大量の届けられすぎた弊害と言えるでしょう。
特に発達著しい時期の子どもたちは、こういった支援過多の影響を受けやすく、
極端な話、「努力しなくても、誰かが助けてくれる」という誤った認識を持ってしまう
可能性も危惧されます。

全国、あるいは世界から集まる支援は歓迎すべきものです。
しかし、それは「子どもの自立」や「地域社会の建て直し」という大前提への意識、
理解に依拠した支援でなければなりません。
posted by NPO法人アスイク at 19:24 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする